reiko-mom-arch’s blog

子育て、フィリピンの生活、旅行、デザイン、建築、作品などをつづります。

フィリピンがわかる本(2)〜マニラ 光る爪

フィリピン人による小説、70年代のプロレタリア文学を紹介します。

都会の底辺で生活している人々が、都会の過酷で理不尽な現実の中で苦しむ様が描かれています。

主人公の青年は、田舎を出た恋人を追ってマニラを訪れる。厳しい都会での労働生活、スモーキーマウンテンでの貧困生活、怪我や病気になったら死ぬしかない、器量のいい女は騙され女郎部屋に入れられる。青年は建設現場で過酷な労働をし、現場監督がわずかな給料をピンはねし、簡単に首を切られる。恋人は騙されて中国人の性的奴隷となっていた。どんなにもがきあがいても、希望が見えてこない。

 

小説家自身の肉体労働経験が下地となっているそうで、労働者の行き場のない怒りが描かれています。

主人公は左官の雑役をしているのですが、工事作業の描写が生々しいです。

 

〜上半身裸のフーリオの体はすでにドロドロになっていた。セメントを注ぎ込むたびにクリーム色の粉が立ちのぼって髪の毛を真っ白にし、同時に鼻の穴を通って肺に入りこむ。皮膚についたその粉はやがて汗で糊のようにべったりと体にまつわりついて、黒く、かゆく、皮膚を焦がす。セメントが塩分を含んだ汗とからみ、太陽の熱で煮えたぎる酸になるような感じだった。〜

 

同僚はコンクリートパイプが顔に直撃して死ぬ。労災や保障などはないのだろう、同僚だけがタクシーを呼んで家族に見舞いをする。「ヘルメットを被る」記述がないことから、おそらく作業員のための安全対策など何も取られていないと推測できる。

 

マニラ市内のホテルやオフィスビルの近代建築物を作り上げてきたのは小説に出てくるような現場の職人たち。彼らが不公平な現実社会の中で、どんな思いで建物を作ってきたのかと想像すると、なんともやりきれない気持ちになります。血と汗、涙がつまったコンクリートの壁も、より切なく、悲しく、そして美しくみえてくる。マニラの近代建築物は、ピラミッドなのだと。

 

フィリピンにいると、テキトーな人に振り回されたり、騙されたりするかもしれません。スーパーで買った野菜が腐ってた、購入した家電がすぐ壊れるかもしれません。でも、ここでは仕方ないよね。この本を読んだ後、フィリピンの辛い現実を知り、諦観モードになります。バックグランドを知ると、腹立たしい出来事も受け入れられます。色々考えさせられる本です。

マニラ―光る爪 (アジアの現代文学 4 フィリピン)

マニラ―光る爪 (アジアの現代文学 4 フィリピン)